そろそろ6月に備えましょうか~カビの対策

今回のトピックは保管環境についてです。これからの季節、最大の問題はカビの対策となります。よくある相談は、気が付いたらカビの被害に遭って大騒ぎという、あとの祭り状態になってしまってからのものです。カビはいったん生えて放っておくと、どんどん増えちゃいます。抜け目のないカビたちは、こちらが気の付かないことを良いことに、容赦なく勢力範囲を広げていくのです。

カビ対策で大事なのは、生えた後の処置ではなく、カビが生えないようにすることです。言うは易し行うは難しですね…。今は4月ですが、そろそろ対策を考えて備える時期でもあります。なぜなら、これから訪れる楽しいゴールデンウィークも終わり「いい季節だね~」なんて言っている間にどんどん日は過ぎて、6月から9月に至る4か月間、日本での保存の難所と言われる「魔の4か月」(勝手に命名)に入ってしまうからです。 日本人であれば、カビを生えないようにすることがどれほど難しいのか、知らない人はいないと思います。そして多くの人たちが「カビ→じめじめした季節→梅雨」なんて連想されるのではないでしょうか?そうです、そのとおりではあるのですが、満点の正解ではありません。「じめじめ=湿度が高い」ですので、湿度が高い梅雨の時期にカビが発生するというのは正解です。でもたしかに梅雨の時期はじめじめしているのですが、梅雨が明ければすっきりする訳ではないですよね。「じめじめ」が終わっても「むしむし」が待っています。夏の終わりには「じとじと」雨の降る、秋の長雨があります。実は入梅の時期から、秋の入り口までの4か月間は、ずーっと湿度が高い日が続くのです。なので正解は「カビ→じめじめ・むしむし・じとじとした季節→6月から9月まで」。魔の4か月は湿度の高い4か月なのです。どうです、ピンときますか?それとも意外と思われますか?

ここで「湿度」について掘り下げていきましょう。なぜならここにカビ対策のヒントがあるからです。 では湿度ってなんでしょう? 「湿度?そんなもん温湿度計でみるもんだろ」と言われちゃいそうですね。でもちょっと詳しい人なら、湿度は「相対湿度」と「絶対湿度」があることはご存じのことと思います。私たちが普段「湿度」と言っているのは「相対湿度」のほう。温湿度計の表示もこちらです。なぜ「相対」という文字が冠せられるかというと、「空気が持つことができる水蒸気の量」と「空気中に含まれている、今の水蒸気の量」の相対で出てくるパーセンテージを数値で表しているからで、この数値が人の実感に合っているので使われています。ちょっとややこしい話ですかね~。平たく言いますと、「さわやか」とか「蒸してる」とか「乾いてる」とか感じる感覚と、何%という数値が、とてもなじみの良いものなので、通常使われる「湿度」に「相対湿度」が使われている、ということです。夏のように湿度が75%で温度も25℃を超えると「蒸し暑いから熱中症に注意だよねー」とか、湿度が40%を下回り冷たい風が吹く冬は「乾燥してお肌ばりばりだわ」みたいな感じ、実感としてありますよね。
ちなみに「空気が持つことができる水蒸気の量」は温度によって増えたり減ったりします。温度が上がれば増えて、下がると減ります。そのことがよくわかる現象に「結露」があります。結露というのは、冷やされた空気が水蒸気を持てなくなって水になってしまう現象ですが、冬なら冷たい外気と暖かい部屋の境のガラスや壁の内側に、夏なら氷を入れたり、冷やしてある飲み物を入れたコップの外側に水滴が発生するという、ごく普通に目にする光景ですよね。あれは冷たいものに触れ、いきなり冷やされた空気が水蒸気を抱えきれなくなって起こる現象です。

湿度のことをさらっと触れたところで、本題、「魔の4か月」の話に入りましょう。 (以降、文章中で単体で「湿度」と使う場合は、この「相対湿度」のことを指します)

グラフ3:6月のグラフ
グラフ1:湿り空気線図

ここで必要になってくるのがもう一つの湿度、「絶対湿度」です。「絶対湿度」は空気中に含まれている水蒸気の量のことを言います。単位はg/㎥なのですが、つまり1立法メートルに何グラムの水蒸気が含まれているかを示すものです。この「絶対湿度」を見ていくと「魔の4か月」の問題点がはっきりとするのです。※1
「絶対湿度」の数値を導き出すには計算式があるのですが、ちょっとめんどくさいので、グラフを使っておおよその数値を導き出すことにしましょう。 〔グラフ1〕は「湿り空気線図」といって、「相対湿度」と「絶対湿度」、「露点」の三つを表すこと出来るグラフです。このグラフを使えば、温度と湿度から「絶対湿度」のおおよその値を把握することができます。(図はクリックすると別タブで大きく表示されます。以下、グラフ2~4も同様です。)

グラフ3:6月のグラフ
グラフ2:4~7月のデータ

〔グラフ2〕を見ていきましょう。グラフの黄色い帯の部分が、紙も取扱いやすくカビも生えづらい湿度50~60%の帯域です。「●」はその月の平均気温と平均湿度の数値が交わった位置に落とし込んでおります。(数値は昨年、一昨年の気象庁の「東京」のデータをもとにしてます。とりあえず4・5・6・7月を例にグラフに落とし込みました。)「×」は月の平均最低気温、「▲」が月の平均最高気温となります。 4月から7月までの数値を「●×▲」でグラフに落とし込んでいくと、グラフの縦軸の「絶対湿度」の値が、徐々に上がっていることがわかると思います。7月は6月よりもさらに値が上がっています。これは空気中の水蒸気の量がどんどん増えているということです。そうです、ここがまさに「魔の4か月」の問題点です。湿った暖かい空気に包まれ、常時カビの発生する危険域に留まってしまうのです。(絶対湿度の値は「●」の位置からグラフ上で確認した数値ですので、厳密なものではありません。おおよその傾向を掴むために作成したグラフですので、割り引いてご覧ください)

細かく見ていきましょう。黄色の帯部分が安全域となりますが、目で見てわかるように、4月と5月は「●」の位置がその帯域に収まっていますが、6月、7月になりますと「●」どころか「▲」の位置も帯域のぎりぎりの位置になっています。つまり一日中ずっと安全域を飛び越している状態となることがわかると思います。日本では4か月にわたり、この高温多湿の時期が続くことになるのです。 ちなみに湿度とカビの発生の関係ですが、※2
・湿度100%… 2日間で発生
・湿度 90%… 約1週間
・湿度 80%… 約2週間
・湿度 70%… 3か月
・湿度 65%… およそ3年
となりますので、グラフの「●」の位置を見ますと、6・7月は3ヵ月で発生してしまう状態ですので、つまり9月頃に「カビ発見」となる確率が高い、ということになるわけです。

これは対策を打たなければなりません。と、言っても相手は空気。大気相手に喧嘩を売っても勝ち目はありません。でも狭い場所でしたらささやかな抵抗はできます。空気中の水分を減らしてしまえばいいのです。そう、除湿です。あたりまえの答えのようですが、これが一番有効です。「水とりゾウさん」?いえいえ、そんなもので対抗できるわけがありません。ここは除湿機を稼働させましょう。普通に60%以下になる設定で除湿機を回せば良いのです。(エコではありませんが仕方ありません)

グラフ3:6月のグラフ
グラフ3:6月のグラフ

例えば6月〔グラフ3〕。この月の平均温度(横軸)と平均湿度(放物線状の横軸)が交わるところから求めた「絶対湿度」の数値が、およそ16g/㎥です。これを矢印のように12g/㎥まで空気中の水蒸気量を減らしてあげる、つまり除湿してあげれば、安全域に入ることがわかります。

グラフ4:7月のグラフ
グラフ4:7月のグラフ

同じく7月〔グラフ4〕ですが、「絶対湿度」の値が、およそ19g/㎥なのですが、このように14g/㎥まで除湿して水蒸気量を減らしてあげることができればよいことになります。(条件:温度はそのままの状態)
こんな形で、毎日溜まる除湿機の水を捨てながら、粘り強く空気中の水蒸気の量を減らす努力を続けていくことによって、カビの発生を押さえるのです。そうです、敵はカビの菌ではありません、空気中の水蒸気量なのです。

もうちょっと詳しく理解したい方には「クライモグラフ」にカビとの関係を落としたグラフがおすすめです。このグラフを見ると「魔の4か月」が一目瞭然です。ウェブで見ることができるのは以下のリンクとなります。(別テーマの論文で、英語表記、しかも画像が粗いですがクライモグラフが出ています)〈亜寒帯湿潤大陸性気候における資料保存環境調査 – 東京文化財研究所〉 (※2には日本語表記で掲載されています)

さて、ここで「魔の4か月」の間に、ついやってしまいがち(起こってしまいがち)な、気をつけなければならないことを二つあげましょう。ひとつめは、数日雨が降り続けたあと、すっきり晴れた後の「窓開け」です。晴れると気分が良いので空気をさわやかに感じるかもしれませんが、雨の後ですので、空気中の水蒸気量は多くなっているものです。そんなときに外気を取り込んでしまうと、せっかく下げた水蒸気量も上がってしまい、元の木阿弥となってしまいます。
もう一つは、夏のエアコンの落とし穴。エコ機能のあるエアコンの中には、外気よりも屋内の温度が高く、設定温度を外気が下回ると、外気をそのまま取り入れて節電するものがあります。たとえば小雨が降っていて気温も低めの時などは要注意です。外気の水蒸気が除湿されないまま屋内に導入されてしまいます。最新式の機器でも機能を確認すべきところです。どちらの行為も「絶対湿度」の値はうなぎ登りに上昇し、気温が下がる夜に向かうにつれ、グッと湿度が上がってしまいます。
どちらも悪気のない行動で起きてしまう悲劇なのですが(実際に起きた事例です)、ちょっと知っておけば防ぐことができますし、湿度が異常に上がった時に、すぐに原因に気づくことができますので、覚えておいて損はないです。

絶対湿度を表示する計器は身近にありませんので、もし「わたしは確かな数値を知りたいんだ」という御仁には、「文化財保存環境学」という、専門家向けではありますが、平易な文章で書かれた良書がありますので、そちらを参考に計算してみて下さい、といいながら、今は便利で良い時代、ありがたくもウェブで《単位変換ツール 絶対湿度と露点温度》をご提供下さっているサイトもございますので、利用してみて下さいませ。温度と湿度を入力するだけで「絶対湿度」と「露点」の値が表示されます。アナログな方法としては先ほどのグラフのように、愚直に「湿り空気線図」を見ながら、おおよその数値を把握するほうがよいでしょう。それで十分な目安となります。

私たちが暮らす、ここ日本の環境も、さまざまな劣化要因に取り囲まれております。参考までに、そんな情報をまとめた〔【スマファイ】アイテムの紹介&取って置きの話〕もご覧くださいませ。

※1…ここでいう「絶対湿度」は空調関係で用いられる混合比〔g/kgまたはkg/kg〕ではありません
※2…《文化財保存環境学》(著:三浦定俊、佐野千絵、木川りか 発行:朝倉書店)p101より抜粋 ~書籍内にクライモグラフの情報も載っています p24

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)