レポート:カビナイバックの効果について

気が付けば秋。しばらくブログ更新を控えて、仕事に忙殺される日々を過ごしておりましたが、そんな中でこの夏の後半戦を使って、例のカビナイバッグ(前回ブログに取り上げ)のテストを行なっておりました。簡単に報告をしたいと思います。

【水濡れ資料テスト】
8月6日から準備を始めました。まず和本のサンプル〔版本〕を用意して、これを3等分にカットしました。それをバットに浸水させて、木曜~日曜の間、放置しました。
サンプル(和本)
今回のサンプル(和本)
カットしたサンプル
3つのパーツに分けました











週明け月曜に覗いてみるとバッド内の水が粘り気を出して茶色く濁っていました。既に表紙の上にはカビが一部見え、白カビと黒カビが数か所発生してました。
浸水4日後
4晩水に浸すと茶色く水が濁り、サンプルにもカビが生える
水濡れ資料の臭いは、過去の國學院大での水濡れ資料と同じように、もっさりとした微妙な発酵臭が感じられました。懐かしいようなこの臭いは水濡れ資料の普遍的な香りなのでしょうか。
資料は一度水道水にて浸して軽くゆすぎ、吸水紙で軽く水気を取りました。








2日目
2日目/それぞれ袋詰めされたパーツ
左:カビナイバッグ 中央:ユニパック 右:ユニパック・エタノール処理
さて3パートに分けた意味なのですが、比較できるように以下のように異なる流れにしました。
(1) 消毒用エタノールに浸し、殺菌後にチャック付きポリエチレン袋:ユニパックに収める。
(2) そのままの状態でユニパックに収める。
(3) そのままの状態でカビナイバッグに収める。








糊:左がカビナイバッグ・右がユニパック
糊:左がカビナイバッグ・右がユニパック
水濡れ資料以外にも、出来立ての生麩糊とメチルセルロースの混合糊を小分けカップに入れて、普通のビニール袋とカビナイバッグにそれぞれ入れて、並行して経過を見ることにしました。
設置場所は木製棚。床面から1メートルほど上の棚です。温湿度データロガーを置いて、30分ごとに測定しました。測定初めの湿度は47%温度32℃でした。
(2)の「そのままの状態でユニパックに収める」のものですが、これは、2日目に白カビが見え始め、次第に範囲を広げ、8日目に黒ズミが広がり、目立つようになり、9日目には黒ズミが濃くなり、それ以降は黒い部分がよりはっきりとし、白カビも範囲を広げていきます。
(1)のエタノールに漬けたものは、黒カビも白カビも見えず、表面の色合いの彩度が落ちた感じに見える感じになった以降は、そのままの状態で推移しました。
黒ズミが広がる
9日目/中央:ユニパックに黒ズミが目立つ
サンプルに膨らみ
13日目/左:カビナイバッグの資料に膨らみを感じる

白カビが増え始める
一か月後/左:白カビがサイドに粒状発生
中央:白カビの範囲が広がる
さて、本題の(3)の「そのままの状態でカビナイバッグに収める」のものですが、これは(2)のように黒カビは見えず、(1)のように表面の彩度が落ちることもありませんが、8日目に白カビが資料の断面に少しずつ見え始め、12日目にさらに断面に目立つようになりました。
そして、13日目に資料の膨らみが目立ち始めました。この現象は、(1)にも(2)にも見られません。そこで、15日目に(1)~(3)の袋のチャックを開けて臭いを嗅いでみました。
(1)は袋に入れた時の発酵臭が少し増した感じ。(2)は発酵臭がかなり強くなっていました。さて(3)のカビナイバッグですが、これは明らかに(1)(2)と違った臭いで、明らかに生ごみのような腐敗臭がしました。見た目で資料が膨らんできたのは、腐敗のガスが発生しているからなのではないかと感じました。
これ以降は細かく毎日観察しても意味がないように思え、またチャックをきっちり閉めて、暫くそのまま放置することにしました。




回収直前
45日目/左:白カビあり、資料に膨らみ続く
中央:表面一面に白カビの層
右:カビは目立たず
そこから一か月後の45日目には、一気に(2)の白カビが資料を覆いつくし、(2)と(3)の臭いも強くなってきたので、ここで経過観察を終えることにしました。
(1) エタノール漬け処理:当初に比べ発酵臭は緩やかに増している感じ。表紙の色は黒く沈んだ感じだが、微生物の繁殖はほかの2点よりも、かなり抑えられている。今の状態からでも修復可。
(2) そのままユニパック詰め:白カビが表面を覆い、厚い層となり、コーティングされた砂糖菓子のよう。黒カビの濃い黒の部分もそのまま。発酵臭は強く、めくると糸を引く。
(3) カビナイバッグ:色に変化はなく、白カビはところどころ見える。資料が膨らみはあり、腐敗の臭いはさらに強くなる。




糊の傷み
45日目/糊:カビナイバッグは縮み硬くなる
ユニパックは全体に黒茶色へ変化
また小分けカップにいれた糊については、一か月くらいは見た目の変化は見られませんでしたが、それ以降はそれぞれ違った変化が表れました。
・カビナイバッグ詰め:カビが目立たないが、薄茶のシミが見える。水分が抜けて体積が小さくなった。(空気の流通があり、乾燥したようだ)
・ユニパック詰め:水分は抜けずに大きさは初めのままだが、濃く黒と茶のカビが広い範囲に広がり生えている。






袋出ししたサンプル
袋から出した状態
中央のパーツの傷み
中央:めくると粘り気があり、糸を引く
カビの種類を分析することはしませんが、おそらく一般的なものでしょうから、黒いカビはススカビ・コウジカビといわれる菌で、白カビは、実はカビではなく酵母であるそうで「産膜酵母」といわれる菌だと思います。
ここまでの経過観察の内容をまとめ、カビナイバッグの特徴を考察しますと、


〔カビナイバッグの特徴〕
・黒カビの繁殖を抑える。
・白カビ(酵母)の発生を抑えることはできない。(成長のスピードは遅くなる)
・モノの内部で腐敗が進行するので、有機物を分解する微生物の働きを抑えることができない。
・袋の素材は、水蒸気の流通があると思われる。
となるでしょう。
つまりカビナイバッグは、「水分量の多いものを入れると、腐敗や白カビの繁殖を抑えられない」という特徴が考えられます。
また、通気性があるようなので、湿度の高いところや、極端に乾燥したところに置くと、外気の影響を受ける可能性が高い、ということが言えると思われます。

また水害資料の救出の対処法のひとつであるエタノール処理についてですが、
〔エタノール漬けの特徴〕
・黒カビ、白カビの繁殖を抑える。
・微生物を殺菌し、繁殖を抑制する効果がある。また、腐敗臭はなく、発酵臭となる。
となりました。
ここにおいても、定番でもありますエタノールでの殺菌処理の効果を実感することができました。

ちなみに、経過観察期間の温湿度の変化ですが、以下のグラフのようになりました。期間中の温度の平均は25.4℃、湿度の平均は52.9%。湿度も、例の大水害のあった時期にかなり高くなってしまいましたが(除湿機の能力を超えてしまいました)、割と安定した環境だったと思います。
温湿度変化グラフ
8月11日~9月25日の温湿度変化

ちょっと夢に描いてみたりした「カビナイバック」の被災資料の時間稼ぎ効果ですが、手放しでは利用できませんが、その効果は限定的でも有益な部分を狙って使うことは出来そうかな、という感触です。
今回は個人の趣味レベルの実験ですので、研究者が面白がって、専門の機関で実験でもしてもらえたらな、と思います。

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