研修会の講師にお呼ばれしました

研修風景① 11月10日に亘理町立郷土資料館にて、宮城県南資料館等連絡協議会の担当者研修会でレクチャーの講師をする機会を頂きました。
内容は2題、
「資料(文化財)を管理する担当者が持っておくべき基礎知識」
「資料の安定化に向けて(保全と応急手当)~アマチュアの起こす失敗とやれること~」
午前と午後に分かれて、4時間の研修会となりました。

集まって頂いたのは協議会に加盟している13名の方々。
参加者皆さん、ほとんどの方が私とは初対面ですし、最初は固い感じの空気で始まりましたが、時間がたつに従って、皆さんとの距離も縮まってきて、和やかな雰囲気になりました。
研修風景② 午前中はコンサバター目線で、「指定文化財の修復(修理)の心構え」をお話しさせてもらい、そのあと「保存と環境:文化財の保存と環境「歴史資料について」「カビについて(一般的な話・震災対応の話)」「資料保存の話」というテーマを駆け足ですが触れていきました。
午後は、修復の話で、ちょっと専門的な話で「接着とはなんだろう。」という話から、メチルセルロースと生麩糊を触って頂いた後に、安全な手当ての方法の一例として、増田勝彦先生の「微小点接着法」とTRCCで作っている「糊和紙」という、少量の水分で補修できる和紙のシートを紹介して、皆さんに実際に使ってもらいました。水を使った繕いは素人には難しい行ないであることを十分にわかって頂けたようです。
研修風景③ あわせて修復などをアウトソーシングする際の業者との対峙の仕方など、受け身にならないための方法なども伝授してまいりました。

研修風景④ それぞれ館によって持っている問題は異なるのですが、共通して抱えている問題は、保存や修復について相談できる窓口を持っていないということ。
相談ができないので、日頃の業務の中で、保存のこと、環境のこと、劣化損傷のこと、たくさん持っているのに、どこにも相談できないまま、少しずつ劣化していく収蔵物を眺めているだけの状態を甘んじているということです。
ホントは「プリザベーション・アドミニストレーター」的な立場の方が、最低でも県に一人でも常駐していたら良いのですが。

また防災対策でも、館の所蔵資料への防災・減災のガイドライン・マニュアルの整備があやふやなこと。
象徴的だったのは「文化財防災ウィール」についてお話しをした時です。午後の時間の少し余った時間を利用させて頂き、ウィールにまつわる話をさせてもらいました。
文化財防災ウィール」皆さんご存知でしょうか?これは2004年にTRCCが協力し、文化財保存修復学会が監修して、全国の所蔵機関に配布されたもの。「これは文化財防災ウィールというものですが、見たことがありますよね?」と質問したところ、手が上がったのは一人でした。ホントは「皆さんの館ではどこに掛けられていますか?」という話をして、そこに災害時の連絡先の記入がされているか確認し、その重要性を語りたかったのですが、それ以前に、ウィールそのものが存在していませんでした。もしかした掛けられていても風景と化して自覚がなくなってしまっているか、どこかに挟まれたまま置かれているのかもしれませんが、いずれにしまして存在を忘れられている、ということです。
3.11の時に、有って助かった、という噂を聞いたことがあるのですが、実態はどうなのでしょう。
そのウィールの片面に諸機関への連絡先を記入できる欄があるのですが、アメリカ版では、身近なコンサバターへの連絡先、という項目があるのですが、これは日本版からは抜けてしまっています。身近にコンサバターがいないので仕方ないのですけどね。でも何かあったときには、絶対に必要な連絡先なのですが。
皆さんには日頃の諸機関(消防署など)とコミュニケーションが大事ですよ、何かあったときに頼れるところとの「平時のお付き合い」が必要です、とお伝えしました。

皆さんとお話しした中で、震災後の対応で、一番の問題とした上がったのが、行政では、災害が起こった後は人命救助や被災者へのケアが最優先で、文化財や史料へのケアは後回しにせざるを得ない、という現実です。ちなみにそれは当たり前じゃない、と思われる方もおられると思いますが、それは先進国において国際基準の考え方ではありません。人命救助と資料の救出は「別問題」とならず、一緒に語られてしまうところに「日本の特徴」があるのです。北米では、所蔵品に保険をかけていて、有事にはプロの業者が、救出に向かうシステムとなっていますが、日本にはそのサービスがありません。
北米の災害マネージメント
北米の災害マネージメント
行政においては、生涯学習と文化振興が同じ組織が受け持っていることが多いと思いますが、災害があったときに、生涯学習課が被災者の支援の業務を任じられると、文化振興の分野の業務は停止してしまうということになるのです。被害が甚大になればなるほど、支援が長期化し、文化財の救済はずっとずっと後回しになります。結果、文化財や史料は、がれきの中でカビやバクテリアなどの微生物の格好の餌食となって、いざ救出が始まった時には、見るも無残な姿に変容することになります。覆水盆に返らずで、何か月前には健康を保っていた史料も、ごみ同然に朽ちてしまい、ただ嘆くばかりの状況となります。
現状では、本来、平等・均等であるべき「保存」と「活用」の業務のバランスですが、所蔵品の「活用」ばかりに重点を置かれて、「保存」対策とのバランスに不均衡を生じているようです。明日来るかもしれない大災害を前にして、このままでは、またもや被災地で多くの文化財が失われていくことになるでしょう。
これも私たち市民として対策してければならない問題ですね。TRCCも自分たちのできることを積み重ねて、この問題に取り組んでいきます。

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