カテゴリー: 修復

AIC参加記3

今回は4人でのパネルの他に、天野さんと吉原さんがArchives Conservation Discussion GroupのTIP Sessionにもエントリーしました。TIP Sessionとは体験からの役立つ情報=TIPを発表する企画です。2人は簡単な英語でできるワークショップのデモンストレーションを予定していたのですが、当日に「今年はデモンストレーションは無しでパネル形式」と判明。急きょパネル用のプレゼン準備をして本番に備えた臨機応変な2人!日沖さんが通訳、私は記録担当です。

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スピーカーは7名。
1)NARAの人:火事にあった公文書の焦げた部分のIRやデジタル撮影の試み
2)Kanasas大学Librariesの人:災害対応時のスタッフの工夫
3)Harverd大学のPreservation Centerの人:濡れた資料の応急対応の直後の教訓
4)Texas大学の人:図書館の濡れた本の自然乾燥の方法
5)Library of Congressの人:濡れた本の大規模な対応
6)神戸史料ネット吉原さん:濡れた資料を身近な道具で乾かす方法
7)宮城資料ネット天野さん:被災資料をボランティアさんと再現する方法

 

米国記録文書館NARAや議会図書館LoC、大学図書館のライブラリアンやコンサバターが自然災害で焼けたり濡れた資料の扱い方やスタッフトレーニングの経験談からの教訓をプレゼンする一方で、Shiryo-Netの天野さんと吉原さんは身近なモノを使った水損資料の乾燥方法や被災資料の再現といったヒストリアンによる異色のプレゼンで面白かったです。

聴衆の質問も鋭い。Q「Shiryo-Netのボランティアはいつどこに派遣するかどうやって決めるのか?」Q「所有者は自分から連絡するのか?」Q「日本にはAICのような災害時に連絡できるコンサバターの組織があるのか?」Q「どうやってShiryo-Netはボランティアの参加を促すのか?」という、Shiryo-Netをもっと知りたい!というツッコミの形でいい質問が続きました。

A「Shiryo-Netは平時から資料や所有者把握しているため、災害が起こったら、たとえ所有者から連絡ができなくてもShiryo-Netから連絡をとることができる。そしてレスキューのためにボランティアを派遣する体制を作る。そのために日頃から時間をかけて所有者と良い関係を築くことが重要なんです」
A「日本にも保存修復学会があるがAICに比べて規模は非常に小さく専任スタッフがいない。Shiryo-Netはコンサバターにレスキュー技術を教わることもある」
A「Shiryo-Netはヒストリアンのボランティア団体で、国内の様々な地域ネットワークを通じてメンバーへの参加を呼び掛けている」
彼らもあらためて日本でこういう質問をされることがなさそうなのでいい機会になったのではないでしょうか。

私自身も天野さんが泥に浸漬した資料の再現したと初めて知って「歴史研究者なのにコンサバターみたいなことしてるなぁ」と資料ネットってここまでしているのかと感心した次第です。

アメリカのAICカナダ大会に参加しました

スタッフの安田です。アメリカの文化財保存修復学会のAICのカナダ・モントリオール大会に初めて参加したのでそのご報告をします。(AIC=American Institute for Conservation of Historic and Artistic Works)
海外のコンサベーションの大会はIICとIADAに行ったことがありますがAICは初めて。しかも今回はスピーカーとして参加。
テーマは「Emergency!Preparing for Disasters and ConfAIC_tomokoronting the Unexpected in Conservation」。
メインは5/15日~17火の3日間で、前後の13,14,18にツアー、Pre-conference sessionやworkshopなどのイベントがあり、盛り沢山なスケジュールです。
私のプレゼンは2日目5/16月の午後のセッション(2:00-3:30pm)で日本人4人によるパネル90分間。

タイトルは、Saving and Preserving Family and Local History from Natural Disasters:Addressing Challenges from the Recent Earthquakes in Japan (自然災害から個人や地域の歴史を救い保全する:日本における最近の地震からの課題に取り組む)

メンバーは
ケンタッキー大学のConservation Librarianの日沖和子さん
神戸史料ネットの吉原大志さん
宮城資料ネットの天野真志さん
TRCCの安田智子の4人
ヒストリアンとコンサバターの混成チームです。テーマといい、このメンバーといい、なぜ?なのかはまたの機会に書きますね。

Processed with Rookie Cam

パネルの構成は、
日沖さんの担当は、スピーカーの紹介とアメリカの聴衆のために日本とアメリカの文化財保存や指定制度など背景の違いの概説です。
吉原さんは日本全国の資料ネット(総称としてShiryo-Net)についてプレゼンする役目です。1995年の誕生の経緯や市民ボランティアとの関わり、20年間に発生した災害で行ったレスキュー活動や吉原さんが行っている被災資料を手当てするワークショップの成果を紹介しました。
天野さんは2011年の東日本大震災による激甚な被害を被った宮城県での宮城資料ネットの活動についてのプレゼンター。被災地のヒストリアンとして5年間の資料のレスキュー経験を話しました。未指定資料も救済しやすくなった一方で、宮城資料ネットが今なおレスキューし続けて、膨大な被災資料を抱えて、ボランティアだけでは処理できないジレンマがあると課題もあげ、コンサベーションの専門家と協力し合う必要性に気づいたことを話しました。
私、安田はコンサバターとして資料ネットとの関わりをプレゼンする担当。2011年に宮城資料ネットや他の資料ネットの現場を訪れた経験やその後宮城でのワークショップを機にTRCCのマスコンサベーションの考えが資料ネットの2人に理解されていった経緯、レスキュー資料の保全が長期化している現在の問題にも触れました。天野さんを受けて、資料ネットとコンサバターと市民ボランティアが一体となって日本の歴史資料を保全するマスコンサベーションを模索中ですとつなげて終えました。

質疑応答では次々と質問がありました。(これが大事ですよね!)
Q 資料ネットの活動は今でも資金面で厳しいのか?
Q アメリカでは災害の場合は保険などで民間の災害復旧会社が対応するのが一般的だが、日本はないのか?資料ネットはそういうサービスも使えないのか? 
Q 資料ネットの市民ボランティアで資料を扱うのに興味を持ってコンサバターになりたいという人がいるか? 
Q 資料ネットのボランティアには海外からきてくれたことがあるか?外国人でも参加しているか?

答えは、以下です。
A 資料ネットは今でも資金的には厳しい
A 日本はアメリカとは保険制度が違うので民間の災害復旧会社やコンサバターに依頼するのは現実的ではない
A コンサバターへの関心を持つボランティアはあらわれたが現実的には厳しいようだ
A (資料ネットにではないけれども)海外の資料保存関係者から、被災資料の応急処置や資料所蔵機関の災害対策に関する文献が送られてきたことがある。

いずれも、資料ネットやコンサベーションに関する本質的な質問だったので、我々のプレゼンが聴衆に伝わったんだなぁ~とわかりとても嬉しかったです!
「よくわかったよ、いいプレゼンでしたね」とNY大学のコンサバターやDCの災害関係者の方に声をかけていただき、初めての海外での発信は成功といえるのではないでしょうか。AICのサイトに私たちのパネルの感想が載っているのをみつけました!「日本からのこのShiryo-Netの発表では、北米の災害のコンサベーションと違う対応でボランティアが資料を救っていること、ただし膨大な資料を救うにはさらなる展開developが必要がある、国が違うと資料の背景や被災資料を見つけて救い出す方法が違っていることは驚きだ」とありました。以下がコメントの全文です→

http://www.conservators-converse.org/2016/06/44th-annual-meeting-saving-and-preserving-family-and-local-history-from-natural-disasters-addressing-challenges-from-the-recent-earthquakes-in-japan/

こういうふうに感想を寄せてくれるとはうれしいですね。海外で日本のことを発信する機会を持つことで、いろんな気づきが得られたAICの発表でした。

AICの参加記はもう少し続きますね。

水濡れ資料の修復の記事のアーカイブ追加

k008_0077月初旬、梅雨まっただ中。あらゆるものが湿気を帯びて、日に日に不快度の指数が上がっております。
もう半月もしないうちに夏へと突入していきますが、資料の保存する機関でも「空調」が大活躍を始めることと思います。しかし、この空調。ひとたび不具合を起こしますと、大事故につながる恐れがある魔物でもあります。とくに大きな建物のセントラル方式の空調システムは、ひとたび事故を起こしますと、大事件となってしまいます。もう7年も昔になってしまいましたが、児島の経験を「現代の図書館」という雑誌に掲載した記事があります。(「現代の図書館 Vol.46 No.2 (通号 186) [2008.6]」)
これは空調の配管の不具合で、冷熱を運ぶ大量の循環水が一気に噴き出し、大学の研究室を水浸しにしてしまった事件が2007年の夏にありまして、大事な研究資料のうち、古文書53点を修復した顛末を報告したものです。
東京修復保存センターのホームページの「TRCCのアーカイブ・コンテンツ」にコンテンツとして加えました。空調事故の内容ですが、もちろん、洪水などの水害対策でも参考にして頂けると思います。これから夏を迎えるにあたりまして、ぜひご一読のほど。(久しぶりに自分の書いた文章を見返しましたが、こなれていないなかでも一生懸命に書き綴っております。ご笑納のほどお願い申し上げます、といった気分です。f^_^)

「保存と活用」の保証と災害対策 ~水濡れ資料の救出と修復作業を通じて~

掲載時は白黒の画像でしたので、ウェブ用に作り替えるにあたりましてカラー画像にしております。自分でもこの画像を見ると、当時、資料から発せられていた発酵臭~サイレージ飼料のような、もっさり(?)した臭い~ のガチでリアルな記憶が、鼻の奥に立ち上がって参ります。なかなか印象的で微妙に不快な臭いでした。

このブログやTRCCのホームページも、またはウェッブショップのほうも、夏の終わる9月あたりまで、順次バージョンアップをして、より使いやすく皆さんのお役に立てる情報を発信できるように改善をしていく予定となっております。乞うご期待!でございます。

TRCCのリーフキャスティング -動画にしてみました-

 年度明けの穏やかな時間の流れを感じる時期も早々に移ろい、また慌ただしい日々が始まりつつあります。若葉の時期はすっかり過ぎて、青梅の山々の緑も、日々その色を濃くしております。

昨年、宮城県の亘理町での被災資料修復講習会に講師として参加した際に、リーフキャスティング作業の説明動画を参考資料として紹介しました。(プロジェクターでの投影ができずに、持参のiPadの小さな画面での再生になってしまいましたが…)日ごろは東京は青梅にある弊社に来ていただいたクライアントの方々に、実際にマシンを動かして見てもらうものなのですが、今の時代、タブレットとアプリがあれば、ちゃっちゃと撮影・編集して動画作成が可能です。便利な世の中のデジタル環境を活用すれば、作業の流れをウェブで見てもらうことができます。ならば、と、いうところで、せっかくの動画コンテンツをアップしちゃおうと思っていたのですが、年度後半の忙しさの中では、そのような時間も取れず今に至ってしまいました。

下の画像をクリックすると、動画を見ることができます。〈再生時間:1分13秒/データサイズ:8.51MB[8752KB]/ファイルフォーマット:MP4〉

リーフキャスティング_動画

細かいことは省いたシンプルな内容ですが、なんとなく「リーフキャスティングはこんな作業なのか」とわかった気になって頂けるかと思います。なおこの作業に使われている器材や道具、材料は、リーフキャスティングの世界基準でも国内基準でもありませんので、ご承知置き下さいませ。

参照:リーフキャスティングの歴史

ダウンロードにかかる時間は通信環境によって異なります。クリックしてしばらく無反応のこともあるかもしれません。またPC環境によって再生不能の事態もあるやと思いますが、そのあたりはご勘弁下さいませ。ちなみにiPhone/iPadのSafariで見る場合には「プライベートブラウズ」をOFFにしてからご覧下さい。

 

※訂正:7月25日のブログで紹介したように、ウェブページでの表示に切り替えました。

やっかいなリーフキャスティング

爆弾低気圧のような年度末の仕事の嵐もようやく通り過ぎ、工房はいくらか平穏さを取り戻しつつあります。桜もすっかり散って、季節は春本番のはずなのに、ここ青梅はまだまだ冷え込みが居座っている感じです。今年度は、このブログの常套句となっている 更新のなまけについての言い訳はもうやめにします。開き直り、気分が向いたらアップするのがMass-Con Blogなんですっ!ということを、臆面もなく宣言させて頂きます。f(^^)

今回のお話は久々のリーフキャスティングネタです。TRCCでは、いろんな劣化症状を持つ資料のリーフキャスティングを行っていますが、手間もリスクも(予算も)たくさん取られる、やっかいなリーフキャスティングもあります。 大量修復の道具としてのリーフキャスティングですが、これから紹介するような劣化症状の資料は、とてもではありませんが大量にばんばん行えるものではありません。 たとえばこんなものや、こんなものもあります。

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保存にも扱いにも八方ふさがりな感じの劣化症状の資料ですが、(画像は一部画像処理でボカしております。あしからず)これらもリーフキャスティング法をキチンと施し、仕上げれば、誰もが閲覧可能な状態になります。 正直、ゴミ箱行き寸前の傷みようですが、こんな状態になってしまった資料こそ、じつはリーフキャスティングがその本領を発揮するものなのです。 (ここだけの話、作業が大変なので、あまりやりたくありませんが)

リーフキャスティング作業を行うための「前作業」という作業に多くの時間が費やされてしまいますが、仕上がりは、修復前の様子をうっかり忘れてしまうほど、しっかりとしたものとなります。しかも裏打ちとは違い、元の本紙の厚みと変わらない、また接着に糊も使わないので、しなやかな風合いとなります。まさにこのような症状の資料に対しては、リーフキャスティングは、その威力をいかんなく発揮します。

158 たとえばこんな派手な虫損と固着で、触るもの厭われる症状の資料も、リーフキャスティングによって一般の方も取り扱うことができるようになります。

 

 

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20140418-140350.jpg前作業で左上の状態まで持ってきましたらリーフキャスターにかけます。虫に食われて無くなったり、固着したり、ぼろぼろになってしまう部分は救えませんが、その部分には紙繊維が充てんされて(「キャスティング=鋳造」の意味は、この充てんする現象を言います)、一枚の紙になります。

 

20140418-145552.jpg一日置きますと、もうこのように持って扱うことができるようになります。

もちろんこれは点検のために短時間見ているだけなので、実際はこれからさらにボードに挟んで、ゆっくりと紙の水分量を抜いていくことになります。

 

仕上がりまできての問題ですが、当然のことながら失われた文字情報をよみがえらせることはできません。なんとか残した文字で判読が可能なのか、それがどこまでの価値を持つものなのか、修復する前に所有者とよく話し合わなければなりません。ここは一番大事なことです。損傷が激しければ激しいほど、文字情報の損傷が大きくなり欠失部が広がり、しかも損傷に比例して修復費用も高くなることは覚えておいて損はありません。(それで安ければ、それこそ眉唾ものです)

さはありながら、水の持つ性質を最大限活用したリーフキャスティングという技法の可能性は、まだまだブルーオーシャンのように広がっています。より発展させることができるよう、これからも日々研究を重ねていきます。

参照:リーフキャスティングの歴史

リーフキャスティングされた資料の展示【東村山ふるさと歴史館にて】

hmrk_003東京は東村山市にある「東村山ふるさと歴史館」におきまして、リーフキャスティングの技法を使って昨年修復しました資料が公開されておりました。(過去形で申し訳ありません。展示は先月で終わっております。)
展示の最後の日に、私もちょっとお邪魔させて頂きました。

 

hmrk_004「讀む古文書―江戸時代の東村山の生活」【 会期/平成25年4月20日から6月30日】という企画での展示会でして、昔に書かれた文書をどう読めば昔の生活が見えてくるのか、江戸時代の東村山の様子を展示の中で体験してもらおうという内容でした。
そこで「古文書の活用」というコーナーの壁一面に、今回の修復の工程が紹介されていました。

昨年、修復を行っている途中に、館の担当者の方が来社されまして、仕上がりに向けた打ち合わせをするついでに作業風景を取材されていかれました。その際に撮影していかれた画像を活用して、パネルに仕上げて紹介して頂いておりました。わかりやすくまとめて頂いていて、こちらの説明を熱心に聞いてくださっていたんだな、と思いました。ありがたいことです。

古文書の活用に対して、市民の方にも広くご理解頂くとともに、活用して頂きたいという想いが詰まった展示でした。予算が少ない中でもやりくりして、アウトプットしていく担当者の努力には頭が下がる思いです。大事なお仕事ですね。

私が訪問した際には流れていませんでしたが、モニターではリーフキャスティング作業の風景も、動画で流れていたそうです。これも訪問された際に撮られていたものです。リーフキャスティングの作業風景はなかなか一般の方には見ることができませんので、これは結構、貴重な映像だったかもしれませんね。

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