レポート:カビナイバックの効果について

気が付けば秋。しばらくブログ更新を控えて、仕事に忙殺される日々を過ごしておりましたが、そんな中でこの夏の後半戦を使って、例のカビナイバッグ(前回ブログに取り上げ)のテストを行なっておりました。簡単に報告をしたいと思います。

【水濡れ資料テスト】
8月6日から準備を始めました。まず和本のサンプル〔版本〕を用意して、これを3等分にカットしました。それをバットに浸水させて、木曜~日曜の間、放置しました。
サンプル(和本)
今回のサンプル(和本)
カットしたサンプル
3つのパーツに分けました











週明け月曜に覗いてみるとバッド内の水が粘り気を出して茶色く濁っていました。既に表紙の上にはカビが一部見え、白カビと黒カビが数か所発生してました。
浸水4日後
4晩水に浸すと茶色く水が濁り、サンプルにもカビが生える
水濡れ資料の臭いは、過去の國學院大での水濡れ資料と同じように、もっさりとした微妙な発酵臭が感じられました。懐かしいようなこの臭いは水濡れ資料の普遍的な香りなのでしょうか。
資料は一度水道水にて浸して軽くゆすぎ、吸水紙で軽く水気を取りました。








2日目
2日目/それぞれ袋詰めされたパーツ
左:カビナイバッグ 中央:ユニパック 右:ユニパック・エタノール処理
さて3パートに分けた意味なのですが、比較できるように以下のように異なる流れにしました。
(1) 消毒用エタノールに浸し、殺菌後にチャック付きポリエチレン袋:ユニパックに収める。
(2) そのままの状態でユニパックに収める。
(3) そのままの状態でカビナイバッグに収める。








糊:左がカビナイバッグ・右がユニパック
糊:左がカビナイバッグ・右がユニパック
水濡れ資料以外にも、出来立ての生麩糊とメチルセルロースの混合糊を小分けカップに入れて、普通のビニール袋とカビナイバッグにそれぞれ入れて、並行して経過を見ることにしました。
設置場所は木製棚。床面から1メートルほど上の棚です。温湿度データロガーを置いて、30分ごとに測定しました。測定初めの湿度は47%温度32℃でした。
(2)の「そのままの状態でユニパックに収める」のものですが、これは、2日目に白カビが見え始め、次第に範囲を広げ、8日目に黒ズミが広がり、目立つようになり、9日目には黒ズミが濃くなり、それ以降は黒い部分がよりはっきりとし、白カビも範囲を広げていきます。
(1)のエタノールに漬けたものは、黒カビも白カビも見えず、表面の色合いの彩度が落ちた感じに見える感じになった以降は、そのままの状態で推移しました。
黒ズミが広がる
9日目/中央:ユニパックに黒ズミが目立つ
サンプルに膨らみ
13日目/左:カビナイバッグの資料に膨らみを感じる

白カビが増え始める
一か月後/左:白カビがサイドに粒状発生
中央:白カビの範囲が広がる
さて、本題の(3)の「そのままの状態でカビナイバッグに収める」のものですが、これは(2)のように黒カビは見えず、(1)のように表面の彩度が落ちることもありませんが、8日目に白カビが資料の断面に少しずつ見え始め、12日目にさらに断面に目立つようになりました。
そして、13日目に資料の膨らみが目立ち始めました。この現象は、(1)にも(2)にも見られません。そこで、15日目に(1)~(3)の袋のチャックを開けて臭いを嗅いでみました。
(1)は袋に入れた時の発酵臭が少し増した感じ。(2)は発酵臭がかなり強くなっていました。さて(3)のカビナイバッグですが、これは明らかに(1)(2)と違った臭いで、明らかに生ごみのような腐敗臭がしました。見た目で資料が膨らんできたのは、腐敗のガスが発生しているからなのではないかと感じました。
これ以降は細かく毎日観察しても意味がないように思え、またチャックをきっちり閉めて、暫くそのまま放置することにしました。




回収直前
45日目/左:白カビあり、資料に膨らみ続く
中央:表面一面に白カビの層
右:カビは目立たず
そこから一か月後の45日目には、一気に(2)の白カビが資料を覆いつくし、(2)と(3)の臭いも強くなってきたので、ここで経過観察を終えることにしました。
(1) エタノール漬け処理:当初に比べ発酵臭は緩やかに増している感じ。表紙の色は黒く沈んだ感じだが、微生物の繁殖はほかの2点よりも、かなり抑えられている。今の状態からでも修復可。
(2) そのままユニパック詰め:白カビが表面を覆い、厚い層となり、コーティングされた砂糖菓子のよう。黒カビの濃い黒の部分もそのまま。発酵臭は強く、めくると糸を引く。
(3) カビナイバッグ:色に変化はなく、白カビはところどころ見える。資料が膨らみはあり、腐敗の臭いはさらに強くなる。




糊の傷み
45日目/糊:カビナイバッグは縮み硬くなる
ユニパックは全体に黒茶色へ変化
また小分けカップにいれた糊については、一か月くらいは見た目の変化は見られませんでしたが、それ以降はそれぞれ違った変化が表れました。
・カビナイバッグ詰め:カビが目立たないが、薄茶のシミが見える。水分が抜けて体積が小さくなった。(空気の流通があり、乾燥したようだ)
・ユニパック詰め:水分は抜けずに大きさは初めのままだが、濃く黒と茶のカビが広い範囲に広がり生えている。






袋出ししたサンプル
袋から出した状態
中央のパーツの傷み
中央:めくると粘り気があり、糸を引く
カビの種類を分析することはしませんが、おそらく一般的なものでしょうから、黒いカビはススカビ・コウジカビといわれる菌で、白カビは、実はカビではなく酵母であるそうで「産膜酵母」といわれる菌だと思います。
ここまでの経過観察の内容をまとめ、カビナイバッグの特徴を考察しますと、


〔カビナイバッグの特徴〕
・黒カビの繁殖を抑える。
・白カビ(酵母)の発生を抑えることはできない。(成長のスピードは遅くなる)
・モノの内部で腐敗が進行するので、有機物を分解する微生物の働きを抑えることができない。
・袋の素材は、水蒸気の流通があると思われる。
となるでしょう。
つまりカビナイバッグは、「水分量の多いものを入れると、腐敗や白カビの繁殖を抑えられない」という特徴が考えられます。
また、通気性があるようなので、湿度の高いところや、極端に乾燥したところに置くと、外気の影響を受ける可能性が高い、ということが言えると思われます。

また水害資料の救出の対処法のひとつであるエタノール処理についてですが、
〔エタノール漬けの特徴〕
・黒カビ、白カビの繁殖を抑える。
・微生物を殺菌し、繁殖を抑制する効果がある。また、腐敗臭はなく、発酵臭となる。
となりました。
ここにおいても、定番でもありますエタノールでの殺菌処理の効果を実感することができました。

ちなみに、経過観察期間の温湿度の変化ですが、以下のグラフのようになりました。期間中の温度の平均は25.4℃、湿度の平均は52.9%。湿度も、例の大水害のあった時期にかなり高くなってしまいましたが(除湿機の能力を超えてしまいました)、割と安定した環境だったと思います。
温湿度変化グラフ
8月11日~9月25日の温湿度変化

ちょっと夢に描いてみたりした「カビナイバック」の被災資料の時間稼ぎ効果ですが、手放しでは利用できませんが、その効果は限定的でも有益な部分を狙って使うことは出来そうかな、という感触です。
今回は個人の趣味レベルの実験ですので、研究者が面白がって、専門の機関で実験でもしてもらえたらな、と思います。

展示会で見つけた「カビナイバッグ」とは?

カビナイバッグ02先週金曜日(2015年7月10日)に東京ビックサイトに行き「国際文具・紙製品展(ISOT)」を見て回ってきました。ポリプロピレンと炭カルで作った合成紙や、紙を積層にしてカード類を挟めるおしゃれなグッズやファイリングで綴じ具を外さなくても抜き差しができるバインダーやら折り紙できる箸袋やら、紙にまつわる提案型の商品に満ち満ちておりました。個々の企業の持つ技術を応用したアイディアを商品にして、直に販売店に卸して販売を目論む中小企業がたくさんいて、それぞれよく考えられた面白い商品もたくさんあることを目の当たりにして、弊社のスマファイ も頑張らねば、と気を引き締めた次第でございます。
そんな展示会会場で見つけたのが、コレ、「カビナイバッグ」。なんと“カビが生えるのを防ぐ”チャック袋です。株式会社トップ堂という会社の持つ「カビナイコート」という技術を応用した商品だそうです。カビナイコートの特徴をウェブから拾うと「カビナイコートとは、これまでにない抗カビ性能をグラビア印刷にてパッケージに塗布した、全く新しい概念の印刷物です。また、人体に有害な添加物や溶剤を使用しておりませんので、あらゆるパッケージにお使いいただけます。」とのこと。
一般用途としては、カビが生えて困る食品やアクセサリー類の保管が例として上げられております。この高温多湿の日本では、特に革製品の保管で効果を発揮するでしょう。なにしろ袋内のカビの浮遊菌の細胞壁を破壊して、微生物を仮死状態にしてしまう効果があるというのですから、カビが生えるまえにこの袋で保管すれば、あとは使うまで入れたままにしておけば良いということになります。ホコリよけにもなりますね。面白い商品が出てきたものです。(ちなみに使用上の注意に「カビが既に付着している品物には効果がありません。」とあり。 f(^ ^))
ISOT会場にて、ブース前でこの商品を手に取りながら、そこはコンサバターの性でして、これを水濡れ資料の緊急避難のツールにできないか、と考えておりました。災害で紙資料が水害に遭ってしまったときに、とにかく濡れたままでも、カビが生え始める前にこの袋に入れてしまえば、本格的な救出の処置を取ったり、専門家に見てもらうまでの時間稼ぎができるのでは、と。
災害対策を考えなければならない公的な所蔵機関の方々、この機能をちょっと検証されてみてはいかがでしょう?ひとたび災害に巻き込まれ、資料たちが水濡れしてしまい、ああ、カビが生えてしまう、臭いもしてきた、でもなにもできない、そんな藁にもすがりたい状況になれば、こんなアイテムが、急場を救ってくれる救世主になるかもしれませんものね。

水濡れ資料の修復の記事のアーカイブ追加

k008_0077月初旬、梅雨まっただ中。あらゆるものが湿気を帯びて、日に日に不快度の指数が上がっております。
もう半月もしないうちに夏へと突入していきますが、資料の保存する機関でも「空調」が大活躍を始めることと思います。しかし、この空調。ひとたび不具合を起こしますと、大事故につながる恐れがある魔物でもあります。とくに大きな建物のセントラル方式の空調システムは、ひとたび事故を起こしますと、大事件となってしまいます。もう7年も昔になってしまいましたが、児島の経験を「現代の図書館」という雑誌に掲載した記事があります。(「現代の図書館 Vol.46 No.2 (通号 186) [2008.6]」)
これは空調の配管の不具合で、冷熱を運ぶ大量の循環水が一気に噴き出し、大学の研究室を水浸しにしてしまった事件が2007年の夏にありまして、大事な研究資料のうち、古文書53点を修復した顛末を報告したものです。
東京修復保存センターのホームページの「TRCCのアーカイブ・コンテンツ」にコンテンツとして加えました。空調事故の内容ですが、もちろん、洪水などの水害対策でも参考にして頂けると思います。これから夏を迎えるにあたりまして、ぜひご一読のほど。(久しぶりに自分の書いた文章を見返しましたが、こなれていないなかでも一生懸命に書き綴っております。ご笑納のほどお願い申し上げます、といった気分です。f^_^)

「保存と活用」の保証と災害対策 ~水濡れ資料の救出と修復作業を通じて~

掲載時は白黒の画像でしたので、ウェブ用に作り替えるにあたりましてカラー画像にしております。自分でもこの画像を見ると、当時、資料から発せられていた発酵臭~サイレージ飼料のような、もっさり(?)した臭い~ のガチでリアルな記憶が、鼻の奥に立ち上がって参ります。なかなか印象的で微妙に不快な臭いでした。

このブログやTRCCのホームページも、またはウェッブショップのほうも、夏の終わる9月あたりまで、順次バージョンアップをして、より使いやすく皆さんのお役に立てる情報を発信できるように改善をしていく予定となっております。乞うご期待!でございます。

そろそろ6月に備えましょうか~カビの対策

今回のトピックは保管環境についてです。これからの季節、最大の問題はカビの対策となります。よくある相談は、気が付いたらカビの被害に遭って大騒ぎという、あとの祭り状態になってしまってからのものです。カビはいったん生えて放っておくと、どんどん増えちゃいます。抜け目のないカビたちは、こちらが気の付かないことを良いことに、容赦なく勢力範囲を広げていくのです。

カビ対策で大事なのは、生えた後の処置ではなく、カビが生えないようにすることです。言うは易し行うは難しですね…。今は4月ですが、そろそろ対策を考えて備える時期でもあります。なぜなら、これから訪れる楽しいゴールデンウィークも終わり「いい季節だね~」なんて言っている間にどんどん日は過ぎて、6月から9月に至る4か月間、日本での保存の難所と言われる「魔の4か月」(勝手に命名)に入ってしまうからです。 日本人であれば、カビを生えないようにすることがどれほど難しいのか、知らない人はいないと思います。そして多くの人たちが「カビ→じめじめした季節→梅雨」なんて連想されるのではないでしょうか?そうです、そのとおりではあるのですが、満点の正解ではありません。「じめじめ=湿度が高い」ですので、湿度が高い梅雨の時期にカビが発生するというのは正解です。でもたしかに梅雨の時期はじめじめしているのですが、梅雨が明ければすっきりする訳ではないですよね。「じめじめ」が終わっても「むしむし」が待っています。夏の終わりには「じとじと」雨の降る、秋の長雨があります。実は入梅の時期から、秋の入り口までの4か月間は、ずーっと湿度が高い日が続くのです。なので正解は「カビ→じめじめ・むしむし・じとじとした季節→6月から9月まで」。魔の4か月は湿度の高い4か月なのです。どうです、ピンときますか?それとも意外と思われますか?

ここで「湿度」について掘り下げていきましょう。なぜならここにカビ対策のヒントがあるからです。 では湿度ってなんでしょう? 「湿度?そんなもん温湿度計でみるもんだろ」と言われちゃいそうですね。でもちょっと詳しい人なら、湿度は「相対湿度」と「絶対湿度」があることはご存じのことと思います。私たちが普段「湿度」と言っているのは「相対湿度」のほう。温湿度計の表示もこちらです。なぜ「相対」という文字が冠せられるかというと、「空気が持つことができる水蒸気の量」と「空気中に含まれている、今の水蒸気の量」の相対で出てくるパーセンテージを数値で表しているからで、この数値が人の実感に合っているので使われています。ちょっとややこしい話ですかね~。平たく言いますと、「さわやか」とか「蒸してる」とか「乾いてる」とか感じる感覚と、何%という数値が、とてもなじみの良いものなので、通常使われる「湿度」に「相対湿度」が使われている、ということです。夏のように湿度が75%で温度も25℃を超えると「蒸し暑いから熱中症に注意だよねー」とか、湿度が40%を下回り冷たい風が吹く冬は「乾燥してお肌ばりばりだわ」みたいな感じ、実感としてありますよね。
ちなみに「空気が持つことができる水蒸気の量」は温度によって増えたり減ったりします。温度が上がれば増えて、下がると減ります。そのことがよくわかる現象に「結露」があります。結露というのは、冷やされた空気が水蒸気を持てなくなって水になってしまう現象ですが、冬なら冷たい外気と暖かい部屋の境のガラスや壁の内側に、夏なら氷を入れたり、冷やしてある飲み物を入れたコップの外側に水滴が発生するという、ごく普通に目にする光景ですよね。あれは冷たいものに触れ、いきなり冷やされた空気が水蒸気を抱えきれなくなって起こる現象です。

湿度のことをさらっと触れたところで、本題、「魔の4か月」の話に入りましょう。 (以降、文章中で単体で「湿度」と使う場合は、この「相対湿度」のことを指します)

グラフ3:6月のグラフ
グラフ1:湿り空気線図

ここで必要になってくるのがもう一つの湿度、「絶対湿度」です。「絶対湿度」は空気中に含まれている水蒸気の量のことを言います。単位はg/㎥なのですが、つまり1立法メートルに何グラムの水蒸気が含まれているかを示すものです。この「絶対湿度」を見ていくと「魔の4か月」の問題点がはっきりとするのです。※1
「絶対湿度」の数値を導き出すには計算式があるのですが、ちょっとめんどくさいので、グラフを使っておおよその数値を導き出すことにしましょう。 〔グラフ1〕は「湿り空気線図」といって、「相対湿度」と「絶対湿度」、「露点」の三つを表すこと出来るグラフです。このグラフを使えば、温度と湿度から「絶対湿度」のおおよその値を把握することができます。(図はクリックすると別タブで大きく表示されます。以下、グラフ2~4も同様です。)

グラフ3:6月のグラフ
グラフ2:4~7月のデータ

〔グラフ2〕を見ていきましょう。グラフの黄色い帯の部分が、紙も取扱いやすくカビも生えづらい湿度50~60%の帯域です。「●」はその月の平均気温と平均湿度の数値が交わった位置に落とし込んでおります。(数値は昨年、一昨年の気象庁の「東京」のデータをもとにしてます。とりあえず4・5・6・7月を例にグラフに落とし込みました。)「×」は月の平均最低気温、「▲」が月の平均最高気温となります。 4月から7月までの数値を「●×▲」でグラフに落とし込んでいくと、グラフの縦軸の「絶対湿度」の値が、徐々に上がっていることがわかると思います。7月は6月よりもさらに値が上がっています。これは空気中の水蒸気の量がどんどん増えているということです。そうです、ここがまさに「魔の4か月」の問題点です。湿った暖かい空気に包まれ、常時カビの発生する危険域に留まってしまうのです。(絶対湿度の値は「●」の位置からグラフ上で確認した数値ですので、厳密なものではありません。おおよその傾向を掴むために作成したグラフですので、割り引いてご覧ください)

細かく見ていきましょう。黄色の帯部分が安全域となりますが、目で見てわかるように、4月と5月は「●」の位置がその帯域に収まっていますが、6月、7月になりますと「●」どころか「▲」の位置も帯域のぎりぎりの位置になっています。つまり一日中ずっと安全域を飛び越している状態となることがわかると思います。日本では4か月にわたり、この高温多湿の時期が続くことになるのです。 ちなみに湿度とカビの発生の関係ですが、※2
・湿度100%… 2日間で発生
・湿度 90%… 約1週間
・湿度 80%… 約2週間
・湿度 70%… 3か月
・湿度 65%… およそ3年
となりますので、グラフの「●」の位置を見ますと、6・7月は3ヵ月で発生してしまう状態ですので、つまり9月頃に「カビ発見」となる確率が高い、ということになるわけです。

これは対策を打たなければなりません。と、言っても相手は空気。大気相手に喧嘩を売っても勝ち目はありません。でも狭い場所でしたらささやかな抵抗はできます。空気中の水分を減らしてしまえばいいのです。そう、除湿です。あたりまえの答えのようですが、これが一番有効です。「水とりゾウさん」?いえいえ、そんなもので対抗できるわけがありません。ここは除湿機を稼働させましょう。普通に60%以下になる設定で除湿機を回せば良いのです。(エコではありませんが仕方ありません)

グラフ3:6月のグラフ
グラフ3:6月のグラフ

例えば6月〔グラフ3〕。この月の平均温度(横軸)と平均湿度(放物線状の横軸)が交わるところから求めた「絶対湿度」の数値が、およそ16g/㎥です。これを矢印のように12g/㎥まで空気中の水蒸気量を減らしてあげる、つまり除湿してあげれば、安全域に入ることがわかります。

グラフ4:7月のグラフ
グラフ4:7月のグラフ

同じく7月〔グラフ4〕ですが、「絶対湿度」の値が、およそ19g/㎥なのですが、このように14g/㎥まで除湿して水蒸気量を減らしてあげることができればよいことになります。(条件:温度はそのままの状態)
こんな形で、毎日溜まる除湿機の水を捨てながら、粘り強く空気中の水蒸気の量を減らす努力を続けていくことによって、カビの発生を押さえるのです。そうです、敵はカビの菌ではありません、空気中の水蒸気量なのです。

もうちょっと詳しく理解したい方には「クライモグラフ」にカビとの関係を落としたグラフがおすすめです。このグラフを見ると「魔の4か月」が一目瞭然です。ウェブで見ることができるのは以下のリンクとなります。(別テーマの論文で、英語表記、しかも画像が粗いですがクライモグラフが出ています)〈亜寒帯湿潤大陸性気候における資料保存環境調査 – 東京文化財研究所〉 (※2には日本語表記で掲載されています)

さて、ここで「魔の4か月」の間に、ついやってしまいがち(起こってしまいがち)な、気をつけなければならないことを二つあげましょう。ひとつめは、数日雨が降り続けたあと、すっきり晴れた後の「窓開け」です。晴れると気分が良いので空気をさわやかに感じるかもしれませんが、雨の後ですので、空気中の水蒸気量は多くなっているものです。そんなときに外気を取り込んでしまうと、せっかく下げた水蒸気量も上がってしまい、元の木阿弥となってしまいます。
もう一つは、夏のエアコンの落とし穴。エコ機能のあるエアコンの中には、外気よりも屋内の温度が高く、設定温度を外気が下回ると、外気をそのまま取り入れて節電するものがあります。たとえば小雨が降っていて気温も低めの時などは要注意です。外気の水蒸気が除湿されないまま屋内に導入されてしまいます。最新式の機器でも機能を確認すべきところです。どちらの行為も「絶対湿度」の値はうなぎ登りに上昇し、気温が下がる夜に向かうにつれ、グッと湿度が上がってしまいます。
どちらも悪気のない行動で起きてしまう悲劇なのですが(実際に起きた事例です)、ちょっと知っておけば防ぐことができますし、湿度が異常に上がった時に、すぐに原因に気づくことができますので、覚えておいて損はないです。

絶対湿度を表示する計器は身近にありませんので、もし「わたしは確かな数値を知りたいんだ」という御仁には、「文化財保存環境学」という、専門家向けではありますが、平易な文章で書かれた良書がありますので、そちらを参考に計算してみて下さい、といいながら、今は便利で良い時代、ありがたくもウェブで《単位変換ツール 絶対湿度と露点温度》をご提供下さっているサイトもございますので、利用してみて下さいませ。温度と湿度を入力するだけで「絶対湿度」と「露点」の値が表示されます。アナログな方法としては先ほどのグラフのように、愚直に「湿り空気線図」を見ながら、おおよその数値を把握するほうがよいでしょう。それで十分な目安となります。

私たちが暮らす、ここ日本の環境も、さまざまな劣化要因に取り囲まれております。参考までに、そんな情報をまとめた〔【スマファイ】アイテムの紹介&取って置きの話〕もご覧くださいませ。

※1…ここでいう「絶対湿度」は空調関係で用いられる混合比〔g/kgまたはkg/kg〕ではありません
※2…《文化財保存環境学》(著:三浦定俊、佐野千絵、木川りか 発行:朝倉書店)p101より抜粋 ~書籍内にクライモグラフの情報も載っています p24

ジクレー版画技法を用いたスペシャルな複製制作

いつもは修復作業(おもにリーフキャスティングですが)やら、修復外の話題など(そっちのほうが多いかも…)気まぐれにアップしておりますが、今回は変わったところで「複製」の事例紹介です。
普段、複製を作成する場合は、劣化症状の進んだ資料ばかりなのですが、今回は、ちっとも傷んでいない健康な資料が対象でした。それもそのはず、昨年、駿河台大学が文部科学省から授与されたばかり賞状が対象なのですから。
制作は今回もジクレー版画技法です。(詳しくは弊社Webの「TRCCのジクレー版画技法の複製について」を参照下さい)

上(左側)がオリジナル、下(右側)が複製

この賞状は、世界的規模のスポーツの競技会において優れた成果を挙げた選手のスポーツ活動に対し、多年にわたる支援を行ったということで、「スポーツ功労団体」として、駿河台大学が文部科学大臣から表彰された賞状です。
〔駿河台大学では、2014年のソチパラリンピック 回転で金メダル、滑降で銅メダルを獲得した鈴木猛史選手を2011年から職員として迎え入れ、競技のサポート事業も行なっています。〕
賞状のオリジナルと複製を並べておりますが、ほとんど瓜二つの出来となっているのがわかってもらえると思います。

 

左下がオリジナルの装飾、右上がシルクスクリーンの技法で表現した複製

この複製で一番の目を引くポイントは桐紋(五七桐)の装飾部分です。
この金の部分はジクレーの技法での表現では限界があり、オリジナルの装飾にあるような光沢の表現は難しいところです。そこで、ジクレー版画工房の竹内社長から、シルクスクリーンの技法を組み合わせたハイブリット制作を提案されたのです。
果たして複製が出来上がり、仕上がりを確認致しますと、あらあらビックリ、きれいに装飾部分がプリントされております。おまけにレリーフの表現までしっかり再現されているから驚きです!オリジナルの金の色合いとの差異は当然ありますが、額に入れて壁に飾られるのであれば、これはオリジナル?と見まごうばかりとなるでしょう。
インクには真鍮の粉を材料に使用し、レリーフ部分はインクを盛り重ねて表現してもらったようです。ちょっとスペシャルな複製が出来上がりました。
さてさて、装飾部分のみに焦点を当ててしまいましたが、忘れてはならないのが賞状の地合いの色の表現です。当たる照明の種類で色温度の高低によって色味が変わりますし、出力の際のカラーバランスの微妙なさじ加減も必要で、より「本物らしく見せる」のが難しいのです。ここは制作者の技術と経験が物を言うところです。
ご覧のように、オリジナルと比べても違和感のないところの色合いに収めてもらっております。文字の表現も合わせて、このあたりの仕上がりは、いつものとおりのグッジョブな、さすがの出来栄えでした。

ちなみに複製はこちらで額装致しまして、後日納品となります。今回の複製の製作は2点でしたが、ジクレー技法の複製の良いところは、必要があれば後日でも複数枚の追加制作ができる点です。

ところで、いつも高精細な複製制作をお願いしている竹内版画工房ですが、もちろん本格的な複製版画を作成するお仕事が本業ではございますが、その技術を惜しげもなく注入した、かわいいサイズ(B6 程度の大きさ)のインテリア絵画の制作も行っていて、最近「プチ絵画工房」というネットショップを開店しております。
「手作り一点物プチ絵画」と銘打っておりますが、本格的なジクレー技法と天然水晶粒を表面にコーティングするシルクスクリーンの技法を組み合わせた、なかなかのインテリア絵画となっております。今は10点のみの出品ですが、これからどんどんアイテムを増やしていくとのことです。ご興味のある方は、アクセスしてみて下さいませ。

近況とリーフキャスティングの歴史に関する新しい記事のお知らせ

光陰矢の如し、いつの間にやら年も明けて2015年となってしまいました。
昨年は夏の終わりから、初冬にかけまして、つくばの国立公文書館分館にいそいそ通っておりました。リハウジングという保全作業の調査研究事業の実行部隊として作業に勤しんでいたのです。「リハウジング」、、、?? 聞き慣れない言葉かもしれません。当然、リハウス、とも違います。専門的な修復技術を持っていなくても資料の保全ができ、利用もしやすくなり、なおかつ低予算、という費用対効果抜群の作業なのです。詳しいことはまた後日に、ブログかホームページに載せようかと思います。ひとまずは、昨年度、国立公文書館の委託で調査研究しました「特定歴史公文書等の劣化状況等に係る調査研究業務」報告書、5-2-2.破損資料への対応策 と 5-4-2-1.リハウジング処置対象資料の考え方 の項を参照くださいませ。
そんな調査も終わり、年末からは年度末に向けて積もりに積もっている、本業の修復作業の波に飲み込まれています。
さて、久々ではございますが、弊社のホームページの「アーカイブ」のコンテンツをアップ致しました。
『資料の保存と修復「リーフキャスティングによる紙資料の修復と保存について」 』
TRCC元代表の坂本勇氏のリーフキャスティング関連の記事で、千葉県文書館発行の「千葉県の文書館」19号に昨年掲載されたものです。HPのコンテンツに「リーフキャスティングの歴史-日本の動き」がありますが、その黎明期における当事者の一人である坂本氏の記事ですので、世界的にも珍しい和紙を用いたリーフキャスティングの技術を確立した状況の、ある一面を知ることができます。